サーモグラフィとは一言で表すと「物体から放射される赤外線を温度値に変換し、『熱画像』として可視化する装置」です。非接触温度計の一種であり、温度分布を画像で可視化する機能を持つ測定器で、様々な用途で使用されています。
サーモグラフィ(thermography)の語源は、「thermo / thermal = 熱の」+ 「graphy = 記録法」= 「thermography = 熱を記録する装置、熱像記録法」に由来します。
なお、同様に赤外線を測定して、画面上に測定エリアの温度平均値をデジタル表示する測定器がありますが、これはサーモグラフィではなく、一般的に放射温度計と呼ばれています。
サーモグラフィは温度分布を画像で直感的に読み取ることができる測定器ですが、接触式の温度計と比較するとその仕組みは複雑です。
このページではサーモグラフィについて解説します。
一般的に赤外線サーモグラフィ (thermography) という呼称が有名ですが、それ以外にも
・サーマルカメラ (thermal camera)
・サーモカメラ (thermo-camera)
・サーモグラフィカメラ (thermography camera)
・サーモビュワー (thermo viewer)
・サーマルイメージャ (thermal imager)
・インフラレッドカメラ (infrared camera)
等とも呼ばれます。
複数の呼称がありますが、これらは一般的には同一のものを指しています。業界的には、サーモグラフィは温度測定を伴うもの。サーマルカメラは温度測定を伴わないもの。と区別されています。
サーモグラフィは赤外線を内部で換算して温度に変換していますが、「赤外線」、「放射率」について理解すると、サーモグラフィの仕組みと正しい測定方法に対する理解がより深まります。
本章では、「赤外線」、「放射率」、そして温度情報の画像化の仕組みについて解説します。
温度が絶対零度(0 ケルビン= -273.15 ℃)よりも高いすべての物体は、赤外線を放射している
物体から放射される赤外線特性は温度との因果関係がある (温度が高くなれば赤外線強度は増える)
物体が赤外線を放射する能力のことを「放射率」といい、物質の種類によりその数値は異なる
放射率が「低い」物質は「反射率」が高くなる。その関係性は「反射率 = 1 - 放射率」(※赤外線透過率がゼロの場合)。反射率が高い場合は、周囲の物体の赤外線放射の影響を受けるため工夫が必要
電磁波の分類
下図では電磁波の種類と関係性を示しています。左から放射線 (ガンマ線、エックス線)、光 (紫外線、可視光線、赤外線)、電波 (マイクロ波、その他の電波)に分類されます。
図1 : 電磁波の種類と関係性
赤外線は英語ではInfrared (インフラレッド) と表記されます。光の一種で、ヒトの目では見ることができない光です。
一方で可視光線 (Visible Light) はヒトの肉眼で検知できる光で、赤色光の外側にあるのが赤外線です。
身近なもので赤外線が使用されている家電には、リモコンや赤外線ヒーターなどがあります。
赤外線ヒーターに手を近づけると暖かく感じます。これは赤外線ヒーターの熱源表面から赤外線を放射 (輻射) しており、ヒトの皮膚表面付近で赤外線を吸収することにより分子が振動し、熱が発生している状態です。3つの熱の伝わり方 (伝導¹・対流²・放射³) のうち、放射(輻射)の仕組みを応用した家電製品です。
*¹ 伝導: (主に固体で) 物質の一部を加熱して高温にしたときに、粒子 (分子・原子) の振動が激しくなり低温部に向けて熱 (振動) が移動すること
*² 対流: 液体や気体中の熱を持った分子が流動することにより熱エネルギーが移動すること
*³ 放射(輻射): 物体から放射される赤外線 (光) を受けた対象が吸収することで起こる熱エネルギーの移動
赤外線ヒーター以外の身の回りのあらゆるモノも実は赤外線を放射しています。温度が絶対零度(0 ケルビン= -273.15 ℃)よりも高いすべての物体は、赤外線を放射します。その物質の温度が上昇するにつれ、赤外線放射強度は増加します。
赤外線を放射する熱源は、温度に応じた赤外線放射特性 (波長域とその放射強度) が分かっているため、それを応用して、サーモグラフィでは様々な物質の温度を非接触で測定することができます。ヒトも体表面から赤外線を放射しており、感染症対策として体表温度測定が非接触で実施されています。
放射率 (ε) は物質の種類によって赤外線を放射する能力を表し、0.00 ~ 1.00の間で表される (百分率でも表される)
放射率 = 1.00の物質は「完全黒体」や「完全放射体」と呼ばれるが実在しない
一般的に、金属の放射率は低く、非金属は放射率の高い物質が多い
測定対象の放射率をサーモグラフィに設定する必要がある
放射率とは
身の回りのあらゆるモノは赤外線を放射していますが、物質の種類によって赤外線を放射する能力が異なります。この赤外線を放射する能力のことを「放射率」と呼びます。
記号では「ε (イプシロン) 」で表され ε = 0.8 というように表記されます。放射率は0 ~ 1の間の数値で表され、放射率=1の物質は「完全黒体」や「完全放射体」などと呼ばれますが、実在はしない理論上の物質です。
最も完全黒体に近い物質は「ペンタブラック」で、99.97 % の光(電磁波)を吸収します。実際の身の回りのものは、ペンタブラックのように高い放射率はありません。
全体的な傾向として下記のことが言えます。
金属 = 放射率が低い
非金属 = 放射率が高い
※金属は表面の状態 (研磨されて光沢がある、錆びていてざらついている等) や、温度で放射率が大幅に変動します
サーモグラフィによる放射率の測定
サーモグラフィで測定を行うときは、測定対象の物質の放射率 (ε) をサーモグラフィに設定する必要があります。
ここで、「あらかじめ接触温度計で測定し表面温度が100 °Cであると判明している2つの放射率が異なる物質Aと物質B」を測定する場合の事例を想定してみます。
下図の通り、物質Aの放射率とサーモグラフィ①の放射率設定が一致しているため①の表示温度は正確ですが、物質Bは放射率が0.6の状態です。しかしサーモグラフィ②の放射率設定は0.95 (デフォルト) のままなので正しい測定値が表示されません。一方で物質Bを測定する右のサーモグラフィ③の放射率設定を正しく変更することでより正確な測定値が得られます。
※放射率が低くなると、反射率が上昇し周囲赤外放射の影響が強くなります。このとき反射温度設定を正しく入力するとより正確な補正が行われます
図2 :「2つの放射率が異なる物質Aと物質B」を測定する場合の事例
下表には、一般的な材質の放射率 εを列記しています。放射率は温度と表面の特性によって変化するため、ここに示した値はあくまでも温度分布または温度差の測定のための目安としてお使いください。正確な温度を測定するためには、物体の正確な放射率を特定する必要があります。
非金属
物質 | 放射率 (ε) |
木綿 (20 ℃) | 0.77 |
紙 (20 ℃) | 0.97 |
コンクリート (25 ℃) | 0.93 |
氷: 平滑面 (0 ℃) | 0.97 |
石膏 (20 ℃) | 0.9 |
ガラス (90 ℃) | 0.94 |
花崗岩 (20 ℃) | 0.45 |
磁器 (20 ℃) | 0.92 |
金属
物質 | 放射率 (ε) |
アルミニウム : 未酸化 (25 °C) | 0.02 |
鉛 : 粗い面 (40 ℃) | 0.43 |
鉄 : 圧延面 (20 ℃) | 0.77 |
鉄 : エメリー研磨 (20 ℃) | 0.24 |
銅 : 研磨 (40 ℃) | 0.03 |
銅 : 圧延 (40 ℃) | 0.64 |
鋼 : 熱処理表面 (200 ℃) | 0.52 |
クロム (40 ℃) | 0.08 |
画素数と同じ数の温度情報が記録されている
温度情報にもとに色を割り振っている。カラーパレットは複数パターン設定可能
特定の色が必ず〇〇 °Cということはなく、色味と温度の関係は表現する温度帯 (スケール) 設定によって変動する
画素数 = 温度データ数
サーモグラフィの仕様で「画素数」は非常に重要です。
例えば320 × 240ピクセルの画素数を持つサーモグラフィの場合は、1ピクセルにつき1つの温度情報を保存することが可能です。したがって、このサーモグラフィを使用する場合、合計76,800の温度データを測定することができます。この大量の温度情報をもとに、画面上で温度に応じた色を割り振って熱画像を表示しています。
撮影された熱画像は表計算ソフトで下図のように画素データの数値として出力することも可能です。
図3 : 撮影された熱画像の表計算ソフトによる画素データ数値出力結果例
カラーパレット
カラーパレット (カラーパターン) はモデルによって異なりますが4 ~ 11種類搭載されています。
テストーの代表的なカラーパレットは「アイアン」、「レインボー」、「温-冷」、「グレースケール」です。
複数の色系統が含まれる「レインボー」、「温-冷」パレットは低温部分が青系統、高温部分が赤色で表現されるので、コントラストが強い画像になり、直感的に温度分布を理解しやすいカラーパレットです。一方で「アイアン」や「グレースケール」は同系統の色で温度を表現します。コントラストは弱いですが、微細な温度変化を視認しやすい画像と言えます。
図4 : テストーの代表的なカラーパレット
スケール設定
サーモグラフィにはスケール設定と呼ばれる設定があります。スケールは色を割り当てる温度帯のことを意味しています。このスケールはサーモグラフィの画面上に表示されており下限と上限が確認できます。
下の画像の例では、23 ~ 36°C の温度帯に対して温-冷パレットの色を割り当てています。23 °C以下および36 °C以上の対象物が画面内にあるときは、それぞれカラーパレットの下限および上限の色で表現されます。
スケール設定のうち、画面内の温度に合わせてスケールを自動で変動させる「自動スケールモード」と手動で上下限温度を設定する「手動スケールモード」を選ぶことができます。スケールに応じて色の割当が変動するため、「この色は〇〇 °Cである。」という絶対的な基準はありません。
尚、スケールを手動設定し固定するメリットは、画角に入った熱源の温度に関わらず色味が変わらないことと、細かい温度差を比較したい場合に狭い温度範囲で色調ができるので色の違いがはっきりする点です。この機能は住宅診断(雨漏り、外壁調査)で便利です。
図5 : サーモグラフィのスケール設定事例
サーモグラフィ製品一覧