揚げ油の劣化・酸化とは
大豆や菜種などの食用油脂の原料の多くは海外からの輸入品で、世界の穀物の需要と供給が食用油脂の価格に大きな影響を及ぼします。日本国内においても、食料品の値上げが相次ぎ、2023年現在も高騰が止まらず、大手食用油メーカーも数回にわたって価格改定を行いました。
また、食品を扱うすべての事業者は、2021年6月より「HACCP (ハサップ)」による衛生管理を運用することが義務付けられています。揚げ物を製造する工場や飲食店では、より一層、適切な油の管理が求められます。揚げ油をCCP (重要管理点) と設定する場合は、その劣化度を、確実に測定して記録する必要があります。
劣化・酸化した油は、味や風味が落ちるだけでなく、健康被害を引き起こします。微生物による食中毒と比較するとその発生件数は多くはありませんが、食品の安全のために軽視することはできません。
油を安全に、そして効率的に使用するために、ここでは食用油脂の劣化メカニズムの基礎を説明します。
食用油脂の劣化・酸化における3大因子は、酸素、熱、光です。そのほかにも、クロロフィルや金属なども油の劣化に関与します。
常温下で酸素と触れることによって起こる酸化反応を、自動酸化と呼びます。長期間の保存において、油の酸化によりヒドロペルオキシド (過酸化物) が生成・分解され、臭いを発生し、毒性を持つこともあります。
揚げ物などの調理では、油を加熱することで、熱による劣化・酸化が進みます。その度合いによっては、臭いや風味が悪くなるだけでなく、食中毒の原因となります。トリグリセライドの劣化が進み、後述の各種の劣化指標に影響します。
直射日光だけでなく、照明の光でも劣化・酸化。油種によって異なりますが、特に大豆油などでは臭い (明所臭) を発生することが知られています。
食中毒とは細菌・ウイルスや有害な物質を摂取した際に、お腹を壊したり、吐き気をもよおしたり、発熱したりするものですが、油の劣化で生じた有害物質はこの原因になります。
各国の廃棄基準
国 | 極性化合物TPM | 酸化AV | 発煙点SP | 重合物DPTG |
日本 | 2.5 / 3.0 | 170 ℃ | ||
中国 | 27% | |||
米国 | FFA <2.0% | |||
ブラジル | 25% | |||
ドイツ | 27% | 2 | 170 ℃ | |
イタリア | 25% | 170 ℃/180℃ | ||
フィンランド | 25% | 2.5 | ||
フランス | 25% | |||
スペイン | 25% | |||
オーストリア | 27% | 170 ℃ | ||
ハンガリー | 25% | 180 ℃ | ||
スイス | 27% | 170 ℃ | ||
ベルギー | 25% | FFA <2.5% | 170 ℃ | 10% |
ポルトガル | 25% |
以下は、主に使用される劣化環境の概要
劣化指標 | 説明 | 主な用途 |
酸価 (AV, Acid Value) | 日本国内で広く用いられている指標で、日本語では「酸化」ではなく、「酸価」。 1 gの油脂に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウム量。自動酸化などでは遊離脂肪酸の生成量が少ないため、劣化の評価法として適さない。フライ油では食品中から出る水分などによって加水分解が起こり、遊離脂肪酸が生じるため、酸価が上昇する。 | フライ油の劣化度評価、油糧種子中油分の劣化度評価 |
カルボニル価 (COV/CV, Carbonyl Value) | 油脂は劣化が進行すると、アルデヒドやケトンといったカルボニル化合物を生成する。油脂の自動酸化や光酸化だけでなく、フライ油の劣化度評価にも用いられる。 | フライ油の劣化度評価、保存油・加熱油の劣化度評価 |
極性化合物 (TPM, Total Polar Material または PC, Polar Compound) | トリグリセライドを主体とする非極性化合物を定量し、その残部を極性化合物とみなして百分率で表した指標で、欧州諸国を中心に、フライ油の劣化度評価に用いられる。極性化合物には、モノグリセライド、ジグリセライド、遊離脂肪酸のほか、重合物などが含まれる。 | フライ油の劣化度評価、保存油・加熱油の劣化度評価 |
過酸化物価 (POV/PV, Peroxide Value) | 脂肪酸と酸素との反応による症いるヒドロペルオキシド (過酸化物) とヨウ化カリウムとの反応により生成したヨウ素分子の量を、1 kg当たりのミリ当量数 (meq) で表したもの。 | 保存油・加熱油の劣化度評価、品質管理 |
その他 | 色、粘度、ヨウ素価、脂肪酸組成、水分など |
日本国内では、「弁当及びそうざいの衛生規範について (昭和54年通知, 平成30年廃止)」等において、酸価、カルボニル価、発煙点による廃棄基準が示されており、その中でも酸価 (AV) が広く用いられてきました。前述の通り、AVは、水分による加水分解が遊離脂肪酸を発生させることで上昇します。
一方、極性化合物 (TPM) は、欧州諸国を中心に揚げ油の管理に用いられている指標で、遊離脂肪酸だけでなく、低分子分解物や重合物が含まれます。
極性化合物(TPM)は、これまで日本国内で古くから用いられてきたAV(酸価)に加え、過酸化物が分解されて生まれる低分子分解物や重合物などを含む総合的な揚げ油の劣化指標です。
これまで酸価という部分的にしか判定されていなかった油の劣化が、より総合的に判定できることになります。
日本国内でも大手店舗を中心にTPMを採用
これまで欧州を中心に揚げ油の劣化判定に用いられていたTPMですが、近年日本国内でも大手飲食チェーン企業を初めとした油を日々使用する店舗や食品製造工程で、管理指標として採用されています。
TPMが採用されている理由として、従来のAV(酸価)ではデジタルでの測定ができないことにあります。試験紙でのアナログな目視での測定に依拠しており、店舗毎に適切な運用をすることが難しいこと、人手不足により運用が難しくなっていること、そして揚げ油の価格高騰が止まらないこと等が理由として挙げられます。
また、従来のAV(酸価)では測定対象に含まれていない低分子分解物や重合物まで配慮することで、より食品の安全性や健康に配慮することができるという面も、昨今企業から選ばれる理由になっています。
揚げ油の劣化度測定に
TPMで劣化判定することで、従来のAV(酸価)ではできないデジタル測定が可能です。
どなたでも簡単に使用でき、同じ基準で判定ができるベストセラーの食用油テスターをご提供しております。
導入事例
複数のレストランを展開するサガミホールディングス様が直面していた食用油管理の課題。食用油テスターを導入を決定した理由や、その結果どのように効率的な油管理が実現されたのか。レストランチェーンならではの問題を解決するための具体的な一例をご紹介します。
導入を決定した理由は?
油の廃棄基準は?
複数店舗ならではの課題とは?
導入後、変化は?
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